いきり立つダンゼントを息子であるベンジャミンが押さえた。
 しかし、ユリウスには声をかけただけ。ユリウスは、自分でも凍えるほど冷たい表情をしている自覚があった。だからこそ、手を出すのは逆効果だと思ったのだろう。

 チコの悲鳴の理由も、おそらくそうだ。

「ユリウス……」
「大丈夫だ。少なくとも、頭は落ち着いている」
「……そうか。……まだ、オリバー王子とコックス子爵令嬢が犯人と決まったわけじゃないが……」
「だが、十中八九」
「……あの二人だろう。ここまでやるとは、俺も思わなかったが」

 犯人はおそらく、オリバーとヘンリエッタだ。その手引きで入ってきた何者かによって、レインとアレンは攫われたのだろう。アレンはレインの抵抗を封じる人質かもしれない。

 夜明けが近い。レインがいなくなってから、少なくとも五時間は経っている。
 レインへ続く手がかりを追って中庭を探していたユリウスは、中庭の向こう、使用人用の門から繋がる馬車道に、きらりと輝くものを見た気がして、そちらへ足を進めた。