――レイン! 自分を呼ぶ少年の声だけが鮮明で――ああ――だから、何もかも失っても、覚えていたのだと思った。 『忘れるのよ、すべてなくしてしまえ。ヘンリエッタの――ヒロインのための物語に、悪役令嬢はいらない』 そんな風に、言い聞かされ、何かをすべてを飲まされて、記憶のすべて、何もかもを捨てさせられたとしても、レインという名前だけは。 意識が浮上する。目が覚めたレインの頬は、涙でぐっしょりと濡れていた。