元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

 レインは、屋敷の東の空を見上げた。
 今は屋敷の高い生垣で見えないけれど、あの空の下には王城がある。
 ――レインの生まれた場所が。

(私、知りたい。私の生まれた場所で、私の母が、父が、どうやって生きていたのか。記録だけじゃない、私の、亡くした記憶の中にいる、両親を知りたい)

 きっと、少し前ならこんなことを思いつきもしなかった。王城へ行くのはオリバーとの結婚の時で、それがレインの終の墓場だと思っていた。

 だから、こんな気持ちで王城に行く日が来るなんて、想像もしていなくて。
 ――レインは、今もレインを抱きかかえているユリウスの腕にそっと手を添えた。

(大丈夫、ユリウス様がいるから、私は前に進もうと思えたのだから)

 そう思って、もう一度見上げた空は、雲一つありはしない。
 ただ、ただ――ひたすらに、青く、高かった。


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