「おにい……ユリウス様?」
「レイン、読むかい?」
「は、はい……」
ユリウスがさし出した手紙に、レインも目を通す。そこには、今まで兄妹として過ごしていたけれど、婚約者だと発表したのだから、別々に住むべきだと書かれていた。
そこまでは納得できた。婚約者同士、結婚もしていないものが同じ屋根の下に住むのは外聞が悪いのはレインにもわかる。問題はその次だった。
レインは――イリスレインはいずれ女王として即位するのだから、その準備、教育をしなければならない。この手紙は、だから王城に住まないか、という申し出だった。
「女……王……?」
「……レインには帝王学を含めて最高の教育をしてきた。女王に即位するとしても、教養的には全く問題がない。あとは外交などの実践だけだ」
ユリウスが静かに言った。レインは思わずユリウスを振り仰ぐ。
「お兄様は、私に女王になれと……?」
「いいや」
ユリウスはきっぱりと否定した。
「レインには、女王になれるだけの資質も、血筋もある。だが、私が君にそうした教育をほどこしたのは、あくまでレインの選択肢を増やすためだ。レインが嫌なら、王位は第二王子にでも譲ればいい。今は幼いが、数年もすれば成人だ。私は、レインに無理強いはしない」
「そう、ですか……。でも、私には女王の資質なんて」
「レインはタンポポが好きと言っただろう。普通、雑草と呼ばれるような花に目を向けられ、価値を見出せる。それは臣民に目を行き届かせられる素養だと、私は思っている」



