レインは今、ユリウスの腕の中で、オリバーとその側近が守るように囲むヘンリエッタと対峙していた。
 ……いいや、正確には、ユリウスに守られているから、安心してしまって、ぼんやりと自分たちを睨むオリバー、ヘンリエッタたちを見ていた。

 卒業パーティーでオリバーから婚約破棄を告げられたのは今しがたのこと。そうして、ユリウスから、ユリウスと自分との婚約を教えられたのも、今しがたのことだった。

 おかしい、自分は、さきほどまで断頭台に上るような気持ちでいたはずなのに……。
 困惑するレインを、ユリウスが強く抱きかばう。

「ユリウス様! 離れてください! その人は悪役令嬢……いえ、危険人物です!」
「悪役令嬢だと? 勝手な造語で私のレインを侮辱するな!」

 ヘンリエッタの言葉に、ユリウスは柳眉を吊り上げた。それにひくり、とヘンリエッタが委縮したのが見えた。ユリウスを好き、と言っていたのに、ユリウスの怒りに満ちた顔を見て恐ろしくなったのだろうか。レインはは、と息をつく。

「貴様らが親子でレインを貶めようとしたことは調べがついている。証拠も商人もそろっている。……ベン」
「はっ」