レインは姫君であり、本来なら何百人もの人間に傅かれるはずの彼女が、お兄様、とユリウスだけに懐き、甘えてくれることはユリウスの喜びだ。そんな彼女が学園へ行き、婚約者であるオリバーに不遇な扱いを受けていると聞いて、オリバーの暗殺を真剣に考える程度には、ユリウスはレインを何より大切にしていた。

「はあ……」
「自分で決めたことなのに、後悔してるんだろ」

 そんな気持ちにベンジャミンが追い打ちをかける。
 わかっている。わかっているとも。

 この状態を招いたのはユリウスの決断だ。ユリウスが、オリバーの伴侶にレインを、という申し出を受け入れていなければ、レインはあの目の光を陰らせることもなかっただろう。
 ユリウスは、国中を飛び回って、レインの誘拐事件の背景について調査している父である前公爵からの報告書に視線を落とした。

「なあ、ベン。コックス子爵令嬢の母親と王家の接点はなんだ」
「もう知ってるんでしょうに、俺に聞くんですか。……皆無ですよ。皆無。ただ、ここ最近、新興貴族や下級貴族の間の茶会に顔を出してるコックス子爵夫人はやたら自信に満ち溢れてるらしく、妄言を吐いては苦笑されてるって話ですが」