だからイリスレインの記憶がないのをいいことに、彼女に適当な名前を付けたのだ。
 その必要があったから。けれどどうしても、イリスレインという、誰もが慈しんだ彼女のかけらを残したくて、残してやりたくて、レイン、という彼女の愛称をとって名前にした。

 雨が降れば虹が出る。そういう意味の名前は、ユリウスのせいでただの雨になってしまった。

 ――レインはユリウスの慈雨だった。

 やっと見つけた彼女は痩せやつれて、あの薔薇色の頬も、美しいつやつやとした髪も、白い手も何もかもを失っていたけれど、あの美しい目に灯る優しい色だけはあの頃と同じだった。レインを救い出したあとは、そのぼろぼろの姿を見てタンベット男爵に殺意すら湧いた。

 だが、幸せに不慣れなレインをいつくしんで大切にすることは、ユリウスにとって幸せなものでもあった。