王女が目を伏せた。

 ひと呼吸おいてから、王女が呟くような小声で言った。

「オリーヴィア……です」

 魔王はしばらく待った。

 けれど、何も起こらなかった。

 そう、何も起こらなかったのだ!

 そのうちに魔法陣の光までが消えた。

 静まり返った儀式の間の中央で、魔王の身体が小刻みに震え出した。

「あ、あの……」

「オリーヴィア、ではないね?」

 王女は恐る恐る顔を上げた。

 魔王はそんな王女をきっと睨んだ。

「嘘を……ついたんだね?」

 声まで怒りで震えていた。

「どういうつもりだい? この僕に嘘をついたのは王女、君が初めてだよー!」

「きゃあああー! ごめんなさーい!」

 王女は踵を返すと、儀式の間から脱兎のごとく逃げ出した。