(そういう脅しをするの……こともあろうに王宮軍が……)

 イーダに選択権はなかった。

「そこの馬車に乗れ」

 男が顎で指した馬車の荷台はホロで覆われていて、外からは中の様子が見えないようになっていた。

 中に押し込まれて、イーダはギョッとした。

 罪人を乗せる檻車なのだろうか。鉄格子で囲われている。

(箒に乗って逃げられないようにするためなのは分かるけど、だからって……これじゃ罪人と扱いが変わらないじゃない!)

「相手が魔王とはいえ、孤児が王妃になれるんだ。名誉に思え」

(だったら、女装して自分が嫁ぎなさいよ! そのための魔法ならいくらでもかけてあげるから!)

 お別れを言う時間など与えてもらえなかった。

 ホロのせいでみんなの顔を拝むことすらできない。

 無情にも発車した馬車の中で、イーダはみんなが自分の名前を泣き叫ぶのを聞いた。

 それはイーダの虚ろな心によく響いた。