五時間かけてようやく西の国境イズールに到着した。

町を見下ろせる高台で、砂埃を巻き上げながらハリスが馬を止める。

それに続いたクリスティーナは、眼下に広がる光景に言葉もなく呆然とする。

(酷い。こんなにも私の町と違うなんて…)

小さなレンガ造りの家はあちこちが壊され、畑や庭も荒らされている。

人の姿も見当たらず、不気味に静まり返っていた。

「住民は皆、町外れの教会に避難しているとのことです」

オーウェンの言葉を背中で聞いたハリスが頷く。

「まずは我が陸軍と合流する。行くぞ」
「はっ!」

皆はまた馬を駆り、高台を一気に下りると森の中に入った。

木の枝につけられた小さな目印を頼りに進むと、やがていくつかのテントが張られているのが見えた。

ハリスは左手を横に伸ばしてオーウェン達に待ての指示を出すと、一人で馬を降りてテントに近づく。

するとその姿を確認した陸軍の大佐が現れた。

「ジェラルド連隊長殿!」
「ピエール大佐。無事だったか?」
「はっ!しかし我が軍は、ほぼ壊滅状態。残された兵は十五人ほどです」
「なんと…」

予想以上に悪い状況に、ハリスは眉をしかめる。

「ですが、我々はただ黙ってやられた訳ではありません。敵にも同じように深手を負わせました。おそらく今は攻撃する余力も残っていないでしょう。互いに息を潜めています」
「そうか、でかした。だが向こうも同じように、味方と合流している頃だろう。いつ動き出すか分からん。こちらも気を抜かずに対策を練っておこう」

そしてハリスは、皆に休息と食事を取れと指示を出した。