「ねえ、お姉様」
「ん?なあに」

クリスティーナの部屋のベッドに二人並んで横になると、早速リリアンが顔を寄せて話しかけてきた。

「お姉様、王太子様と結婚なさるの?」
「ああ、その話なんだけどね。実はちょっと事情があって、王太子様の花嫁候補は建て前だったの。本当は王太子様の護衛の為に王宮に呼ばれたのよ」
「そうだったのね!おかしいと思ってたの。お姉様、花嫁候補なんて嫌がりそうなのに、なんだか嬉々としてらしたし。なるほど、護衛なら喜んで引き受けそうね。腕が鳴るわって感じで」

クリスティーナはリリアンの口調にたじたじになる。

「そんなにペラペラと分析するなんて…。リリアン、あなたいくつよ?」
「もう十四よ。お姉様も十八でしょう?結婚してもおかしくないわよ」
「だからってしないわよ、結婚」
「あら、どうして?」
「どうしてって…。最初からそんな話はなかった訳だし、護衛の役目も終わったから、私がここにいる意味はないの」
「王太子様がそうおっしゃったの?お姉様はここにいる意味がないって」

え…、とクリスティーナは言葉に詰まる。

「そういう訳ではないけど…」
「ではなんておっしゃったの?」
「えーっと、なんだったっけ?よく覚えてないわ」
「まあ!お姉様」

リリアンは、ふっくらとした頬を更に膨らませる。

「それならきちんとうかがってね。王太子様はお姉様を帰らせたいのかどうかって」
「私を、帰らせたいのかどうか…?」

言葉に出したクリスティーナは考え込む。

(フィルは私を帰したいのかしら。帰れと言われたら、私は喜んで屋敷に帰る?そうよね、リリアンとまた楽しく暮らせるもの。でもそうすると私はフィルに会えなくなる。それって…、寂しい?私はフィルを…)

「お姉様、分かった?」
「あ、はい」

顔を覗き込まれて思わず頷くと、リリアンはにっこり笑う。

「ふふっ、またお話聞かせてね!お姉様」
「リリアン、あなた本当に可愛らしいわね」
「お姉様だって、なんだかいつもより可愛らしいわよ?」
「は?もう、からかわないでよね」
「ふふふ、はーい!」
「ほら、もう寝ましょ。お化けが出たらどうするの?」
「お姉様が守ってくださるから平気!」
「あはは!じゃあ今夜はリリアンの護衛をしなくちゃね」

そうやって二人はいつまでもおしゃべりを楽しんでいた。