「おやおや、選手の交代ですかな?身代わりになるとは、美しい姉妹愛だな」
「あなた達、何が目的なのよ?」
「威勢のいいお嬢さんだな。本当に伯爵家の令嬢か?さっきの妹は怯えて震えてたぞ」
「リリアンを誘拐するなんて、この私が絶対に許さない!」
「へっ!さすがはぬるま湯育ちのお嬢様。俺達貧乏人の暮らしなんて想像もつかないんだろうな」

三人の男達は、ニヤニヤ笑いながらクリスティーナに近づく。

「毎日ご馳走食ってんだろ?俺達が道端の草を食べてしのいでるっていうのにさ」
「割に合わねえよなあ。お前にも痛い目に遭ってもらわないと」
「さてと。どっちがいい?ムチで打たれるのと、俺達の慰みものになるのと」

クリスティーナはグッと男達を睨みながら短剣を構えた。

「どっちもお断りよ!」
「へっ、それじゃあ両方味わってもらうとしよう」

その言葉を合図に、三人は一斉にクリスティーナに飛びかかる。

その手には太くてゴツいナイフや斧が握られていた。

カン!と短剣で受け止めるも、すぐに振り払われる。

(ああ、もう、やりにくい!ナイフって、どこがポイントなの?)

剣なら狙う場所が分かるが、ナイフや斧とやり合うのは初めてだった。

しかも男達は力任せに振り回してくる。
何度か耐えたが、とうとうクリスティーナの手から短剣が弾き飛ばされた。

「ほらよ、捕まえた」

一番大柄な男がクリスティーナの両手を背中に回してひねり上げる。

クッと顔を歪めてクリスティーナは痛みを堪えた。

「さてと。まずは痛めつけてから、伯爵家に脅迫状でも送ろうかね」
「いくら巻き上げられるかな?クククッ」
「それにしても、なかなかの美人じゃないか。可愛がってやるよ」

顎を掴んで顔を寄せてくる男の手に、クリスティーナは思い切り噛みついた。

「いって!この野郎…。調子に乗りやがって」

男が大きく手を振りかぶった時、馬の足音と共に声が聞こえてきた。

「クリス、受け取れ!」

顔を上げると、馬に乗ってこちらに駆けてくるフィルが剣を投げるのが見えた。

「フィル!」

クリスティーナはフィルの投げた剣を足でカン!と真上に高く蹴り上げると、怯んだ男の手を振り向きざまに解き、キャッチした剣で一気に男のナイフを叩き落とした。

「くそっ、この女!」

素手でクリスティーナに殴りかかろうとした男の前に、ヒラリと馬から飛び降りたフィルが立ちふさがる。

ゴツッと鈍い音がして、フィルが繰り出した拳に男はうめき声を上げて崩れ落ちた。

「フィル!」
「無事か?」
「ええ、大丈夫」
「良かった。でもまだ二人いるぞ、油断は…」
「禁物!でしょ?」
「そういうこと!」

二人は背中合わせになると、剣を構えて残りの男達とそれぞれ対峙する。

同時に飛びかかられ、相手の武器を弾き飛ばすのも同時だった。

フィルが三人を縄で縛り、なぜこんなことをしたのかと口を割らせる。

三人は、戦で焼け野原になった故郷を捨ててこの地に辿り着き、あまりの暮らしの違いに愕然として、何かに怒りをぶつけずにはいられなかったと呟いた。

フィルとクリスティーナは黙って男達の話を聞き、最後に金貨を渡して縄を解いた。

「良かったのか?本当にこれで」

戸惑いつつも逃げていく男達を見ながら、フィルがクリスティーナに尋ねる。

「良くないのかもしれない。でも、私はこうしたかった」
「そうか…」

二人は黙ったまま、しばらくその場に佇んでいた。