どれくらいの時間が経ったのだろう。
カツカツと階段を下りてくる足音が聞こえてきて、クリスティーナはハッと息を詰める。

「出せ」
「はっ!」

先程と同じ男が見張りに命じる声がして、ガチャガチャと牢屋の鍵が開けられた。

「立て」

クリスティーナとフィルは、後ろ手に縄を握ったまま立ち上がる。
腕を引かれて牢屋から出されたらしい。

「行くぞ」

そう言って男が背を向けて歩き出すのが分かった次の瞬間。

「今だ!」

フィルの声がしてクリスティーナは一気に目隠しを取り、短剣を引き抜いて背後から男の首筋に突きつけた。
ドスッ、うわ!と激しい音がして振り返ると、フィルが見張りの二人を素手で倒して牢屋に押し込んでいた。

「この男はどうする?」
「んー、一緒にぶち込んでおこうか」
「了解」

クリスティーナも男を羽交い絞めにしながら牢屋に押し込んだ。

「おっと、鍵を借りるよ」

見張りの男の腰に付いていた鍵の束を取り上げると、フィルは牢屋の扉を閉めて鍵をかける。

「じゃ、そういうことで」

牢屋の中の男達に軽く手を挙げてから、フィルはクリスティーナに目配せすると一気に走り出した。

「まずはボスの居場所を探す」
「分かったわ」

二人は階段を駆け上がると、物陰に身を隠しながら廊下を進む。
ここはどうやら要塞らしい。
床も壁もゴツゴツした石がむき出しになっている。
少し進んでは隠れ、また走っては隠れ、を繰り返し、クリスティーナは大きな樽の陰に屈み込んだついでに聞いてみた。

「フィル、見当はついているの?どこに司令官がいるのか」
「分からん」
「じゃあ、どうしてこっちに?」
「勘だ」

きっぱりと言い切るフィルにため息をついて、仕方なくクリスティーナはまた走り出したフィルのあとを追う。

やがて要塞の中央に螺旋階段が見え、フィルは身を屈めながら慎重に上がり始めた。
半信半疑でついて行くと、先に上り終えたフィルが廊下を覗いてから、しっ!とクリスティーナを振り返った。

親指で後ろを差すフィルに、クリスティーナはそっと壁から顔を覗かせて廊下を見てみた。
百メートルほど先の大きな扉の前に、物々しい鎧を着た見張りが二人、微動だにせず立っている。

「あそこだな。ボスがいるのは」
「ええ?安直すぎない?わざとそう見せかけて、実は何でもない小さな部屋にいるとか」
「いや、裏は読まない方がいい。素直が一番さ。女もね」
「はあ?」

こんな時に何を言っているのかと呆れながら、クリスティーナは再び動き出したフィルのあとに続いた。