「降りろ」

冷たく命令され、乱暴に腕を掴まれてクリスティーナは馬車を降りる。
目隠しをされた上に後ろ手に縛られており、ここがどこだかも分からない。

あれからしばらく猛スピードで走り続けていた馬車は、とある森に入ると一旦止まった。
すかさず馬車は十人ほどの兵に囲まれ、乗り込んできた兵にクリスティーナもフィルも手を縛られ目隠しをされたのだった。

それからまた馬車は走り出し、ようやく着いたこの場所がどうやら敵の本拠地なのだろう。

小突かれながら石畳を歩き、ギイと扉の開く音がして中に歩を進めると、跪け!と刀を首に当てられた。

ゆっくりと膝を折ると、冷たく固い地面に触れて思わず身震いする。

「ほう、これはまたお若い国王と王妃だな。まるでおままごとだ」
「バカ者達が!まんまと騙されおって」
「閣下、そうお怒りにならずとも」
「お前が言ったのだろう?裏の裏をかいて、国王は真ん中の馬車に乗ると」
「ははは!そうでしたね。深読みしすぎました」
「笑っている場合か?」
「いいではないですか。この者達も使えますよ。王太子とその妃らしいですから、人質としては充分です。今頃やつらは、この二人を救い出そうと躍起になっているでしょうね。さて、我々も部屋で案を練るといたしましょう」

衣擦れの音がして、やがて辺りは静かになった。

「おい、立て」

再び首筋に冷たい刀を当てられ、クリスティーナは立ち上がる。

「歩け」

言われるがままに歩いて行くと、どうやら地下に繋がる階段に出たらしい。
踏み外さないようにゆっくりと下り、少し先に進むとドン!と背中を押されてクリスティーナは床に倒れ込む。
同じくドサッとフィルが倒れ込む音がした。

「しっかり見張っておけ」
「はっ!」

ガシャン!という音の後、カツカツと足音が遠ざかる。

(どうやら地下の牢屋に入れられたようね。見張りは、声からしておそらく二人)

クリスティーナは辺りをうかがうように耳を澄ませた。

(来た道を戻るには、牢屋を出て左ね。どうにかしてここから出なければ)

気配を察するに、フィルは自分の斜め後ろにいる。
そう感じたクリスティーナは、横たわったまま少しずつ身体を後ろにずらしていった。
見張りに気づかれている様子はない。
慎重にじわじわと移動していくと、やがて背中で縛られた自分の手にフィルの手が触れた。
互いに背中合わせになったようだ。

「…フィル」

声を潜めて呼びかけると、なんだ?と返事があった。

「私の太ももに短剣が忍ばせてあるの。それで縄を切って」

馬車に押し入られて縛られた時にフィルの剣は奪い取られていたが、まさかクリスティーナがドレスの下に剣を隠しているとは敵も思わなかったのだろう。
恐怖で怯えるひ弱な令嬢のフリをしたのもあり、短剣は今もクリスティーナの左のももにベルトで留められたままだった。

「分かった」

小さく呟いてフィルが手でクリスティーナの身体をまさぐる。

「ちょ、どこ触ってるのよ?そこはお尻よ」
「そんなの知るかよ。目隠しされて手も不自由なんだ。黙って触らせろ」
「ひい!この変態!」
「うるさい!敵に気づかれるぞ」
「うっ…」

仕方なくクリスティーナは身を固くしてじっと耐える。
フィルはしばらくドレスの上からクリスティーナの身体を触って確かめた後、スカートをゆっくりとたくし上げていく。

(ひいーーー!なんて手つきなのよ)

思わず蹴り飛ばしたくなるのを必死で堪えていると、今度は手でじかに足をまさぐり始めた。

(いやーーー!もう無理!)

身をよじって耐えていると、ようやくフィルの手が短剣に触れた。
スッと静かに鞘から引き抜き、両手でクリスティーナの縄を確認しながら少しずつ切っていく。
やがてハラリとクリスティーナの腕から縄が落ちると、今度はクリスティーナが短剣を受け取ってフィルの縄を切った。

もう一度短剣を太ももに隠し、縄を後ろ手に持って縛られているフリを続ける。