平穏な日々が続く。

クリスティーナはなるべく王太子と行動を共にし、ガーデンの散歩や図書室にもつき添った。

執務室に一人で入られる時は、隣の部屋でロザリーと刺繍をしながら待つ。

「痛っ!また指を刺しちゃった」
「まあ、大丈夫ですか?アンジェ様。すぐに手当を…」
「そんな大げさな。これくらい何でもないわ。それより、どうやったらそんなに上手く出来るの?ロザリー」
「えっと、普通にやれば、これくらいは…」
「あら!じゃあわたくしは普通ではないのね?」
「いえ!あの、決してそのような意味ではなく」
「いいのよ、自覚はあるもの。わたくしなんかが王太子様のおそばにいるなんて、およそふさわしくないわよね」
「そんなことはございません!アンジェ様は、とてもお優しくて聡明な方ですわ。わたくし、アンジェ様を心からお慕いしております」
「まあ、ありがとう!わたくしもロザリーが大好きよ」

二人でふふっと微笑み合う。

クリスティーナは、すっかり王宮での暮らしに慣れていた。

王太子と二人でディナーを食べた後は、支度をしてクリスティーナが先にベッドに入る。
王太子は夜半過ぎにそっと寝室に来て、広いベッドの端に横たわり、夜明け前にはいなくなる。
姿を見ることはないが、真夜中にふと隣に王太子がいる気配を感じ、クリスティーナはなぜだかホッと安心していた。

そんな毎日が続く中、ついに事態は急変したのだった。