「ここが大広間。今は情勢が思わしくないから自粛しているけど、以前は月に一度は舞踏会を開いていたんだ」
「そうなのですね。なんて豪華なのでしょう…」

天井に煌めく大きなシャンデリアを見上げて、クリスティーナはうっとりと呟く。

「争いが終わったら、早速君のお披露目パーティーを開こう。俺と君の婚約パーティーをね」
「そ、そうですわね」

演技、演技…と、クリスティーナは王太子の言葉に笑顔で頷く。

図書室や音楽ルームなども案内してもらいながら、クリスティーナは王宮の内部を頭に叩き込む。

敵が忍び込みやすい場所や、いざという時の避難経路を頭の中で考えながらひと通り回り終えると、最後に王太子は、他にどこか見たい所はある?と聞いてきた。

「よろしければ、お庭を拝見してもよろしいでしょうか?」
「ああ、そうだったね。もちろん」

二人は連れ立って外に出た。
すぐ後ろをロザリーもついてくる。

(外に出るのは危険だったかしら。今、敵が襲ってきたら、王太子様だけでなくロザリーも守らなくては)

そんなクリスティーナの様子とは裏腹に、王太子は楽しそうにガーデンを案内する。

「一人で散歩してもつまらないけど、君のように美しいレディと一緒だと楽しいな。花と美女はとても絵になる」
「いえ、そのようなことは…」
「はは!照れる様子も可愛らしい」

クリスティーナは困ったように眉を下げて微笑む。

(王太子様、お芝居が大げさでは?)

とにかく自分は任務を忘れずに!と、クリスティーナは辺りに目を光らせながらガーデンの中を進む。

咲き乱れる花々は綺麗で、芳しい花の香りにクリスティーナの心も癒やされた。

「どうぞ」

小さな水路に架かる橋の前で、王太子はクリスティーナを振り返って手を差し伸べる。

「ありがとうございます」

その手を借りてドレスの裾を気にしながら橋を渡り、クリスティーナはあれ?と思い出す。

(夕べは、決して君に触れたりしないとおっしゃっていたような…。でもこれは、紳士としての振る舞いとしては当然のことなのね、きっと)

そう納得し、広いガーデンをゆっくりと眺める。

(一人でのんびりお散歩出来たらどんなにいいかしら。でも、王太子様をお一人にする訳にはいかないものね)

任務、任務、と、クリスティーナは小さく呟いて気を引き締めた。