*
パイオン公爵夫妻の没後、数十年。
アマリリオ王国で蜂蜜を冠する名、ミエーレは、オルトロス王国において、蜜蝋だけでなく、日差しを指す言葉に変容する。
オルトロス王国で星を冠する名、アステルもまた、アマリリオ王国において、星を編んだ織物だけでなく、涼しい風を指す言葉に変容した。
アマリリオ王国には、涼しい風は吹かない。オルトロス王国では、日差しは差し掛からない。
それでも両国民は、見知らぬ概念を知り、思い、同盟の証として、またうつくしいものの象徴として、二つの名を語り継いだ。
それぞれにあやかって名付けられた子どもたちは、見果てぬ夢を抱き、自分の名を冠するものを見るために、両国間を旅するようになる。
大陸の端と端、盛んな行き来は両国の建国以来、初めてのことだった。
二国間をまたがる商人は、しりとりが抜群に強くなるとかいう、本当かどうか定かでない噂話もあるらしい。
恩恵を享受したのちの世代から、国を豊かにした功績を称えられ、アマリリオ王国でも、オルトロス王国でも、さまざまなものにパイオンという接頭辞がつけられた。
大陸においてパイオンは平和を象徴する言葉になり、平和の鳥として梟が、花として向日葵が謳われるようになった。
みの虫姫と梟殿下の婚姻にまつわる逸話は、今なお吟遊詩人の人気演目だ。
大陸中で語られ、向日葵で編んだ冠と、星を編んだ織物でつくったマントとともに、広く親しまれている。
きらめく布の胸元を、梟を形どったブローチで留めている者は、アマリリオ王国かオルトロス王国で特別に認められた、一流の詩人とされた。
生まれつき色素の薄い目や、先祖返りの目の持ち主は、疎まれにくくなっている。
昼夜の政略結婚によって結ばれた同盟は、こうして確かに繁栄をもたらした。
身代わり同士の第二王子と第二王女は、互いを思い、力を尽くし、そして、幸せに暮らしたのである。
Fin.
パイオン公爵夫妻の没後、数十年。
アマリリオ王国で蜂蜜を冠する名、ミエーレは、オルトロス王国において、蜜蝋だけでなく、日差しを指す言葉に変容する。
オルトロス王国で星を冠する名、アステルもまた、アマリリオ王国において、星を編んだ織物だけでなく、涼しい風を指す言葉に変容した。
アマリリオ王国には、涼しい風は吹かない。オルトロス王国では、日差しは差し掛からない。
それでも両国民は、見知らぬ概念を知り、思い、同盟の証として、またうつくしいものの象徴として、二つの名を語り継いだ。
それぞれにあやかって名付けられた子どもたちは、見果てぬ夢を抱き、自分の名を冠するものを見るために、両国間を旅するようになる。
大陸の端と端、盛んな行き来は両国の建国以来、初めてのことだった。
二国間をまたがる商人は、しりとりが抜群に強くなるとかいう、本当かどうか定かでない噂話もあるらしい。
恩恵を享受したのちの世代から、国を豊かにした功績を称えられ、アマリリオ王国でも、オルトロス王国でも、さまざまなものにパイオンという接頭辞がつけられた。
大陸においてパイオンは平和を象徴する言葉になり、平和の鳥として梟が、花として向日葵が謳われるようになった。
みの虫姫と梟殿下の婚姻にまつわる逸話は、今なお吟遊詩人の人気演目だ。
大陸中で語られ、向日葵で編んだ冠と、星を編んだ織物でつくったマントとともに、広く親しまれている。
きらめく布の胸元を、梟を形どったブローチで留めている者は、アマリリオ王国かオルトロス王国で特別に認められた、一流の詩人とされた。
生まれつき色素の薄い目や、先祖返りの目の持ち主は、疎まれにくくなっている。
昼夜の政略結婚によって結ばれた同盟は、こうして確かに繁栄をもたらした。
身代わり同士の第二王子と第二王女は、互いを思い、力を尽くし、そして、幸せに暮らしたのである。
Fin.


