「……ベールを、取りたくて」

「はい。お取りしますね。では座っていただいて」

「いえっ」


こちらは意を決して言ったのに、アステルはすっかり手慣れている。


はいではないわ、はいでは。お取りしますねなんて、そんな、まるで水差しを取るみたいに。


『私は、あなたと私のお披露目は、あなたがもう少し我が国に慣れてからと思っております』

『不躾なお願いですが、できることなら、挙式の際にベールを外していただきたいのです』


かつてアステルは、ベールを外すのを待つと言った。


わたくしはこれでも、大変な決意をしているのよ。ベールを外すということは、結婚したいと示すこと。

いえ、結婚は決められているのだけれど、あなたを信頼しましたと示すことと同義だわ。


それほど重大なのだ。改まるわけである。


「アステル。わたくしは、もう一日も、あなたとの婚姻を延ばすことができなくなりました」


組んだ両手が震える。その震えを見てとって、そっと自分の手を重ねたアステルは、心配そうにこちらを覗き込んだ。


「それは、そのような王命がありましたか? ご無理なさらずとも、私も一緒に掛け合いますから、どうぞお気持ちの整理がついてから……」

「いいえ、気持ちの整理はつきました。無理も、しておりません」


ありがたい申し出に首を振り、ゆっくり断る。