「わたくしも、嬉しかったことをお話してもよろしいかしら」

「ええ。聞かせてください」

「今日、侍女から、ミエーレさまと呼ばれましたの。アマリリオ王国では第二王女殿下だなんて堅苦しかったものですから、嬉しくて」

「おや、羨ましいですね」


相槌ののち、殿下はゆるくグラスを揺らした。


くるりと波打ったのは、暗がりでも白い酒。こちらでは白は月の色、最も尊ばれる色のひとつ。


ベール越しの視界からグラスが消えたから、おそらく一口含んだのだろう。


「私も、呼び名は第二王子殿下です。あなたも私を殿下とお呼びになる」

「あら、殿下はわたくしをミエーレ殿下とお呼びになります」


アステルさまでも、アステルさんでも変な感じがする。家柄が同じだから、他にどう呼んでよいのやら。


「ミエーレ」

「っ」


低迷する思考を遮って、殿下がこちらを短く呼んだ。見本を示すようだった。


「私のことは、どうぞアステルと」

「殿下」

「ミエーレ。呼んでくださいますね?」


穏やかで、静かで、確かな口調だった。


促されて頷く。否やはない。嫌でもない。


「アス、テル」

「はい」


あまりに優しく微笑まれてカッと体温が沸騰した。


「アステル。わがままを申します。もうひとつだけ、お願いがございます」

「なんでしょう」

「わたくし、あなたにベールを外していただきたいわ」