身代わり同士、昼夜の政略結婚

「アステルでんか」

「はい」

「ありがとう、ぞんじます。お心づかい、うれしいです」

「はい、ありがとうございます。まずはゆっくりなさってくださいね。おやすみなさい」

「おやすみ、なさい」


そうか、オルトロス王国では、よい夢は願わないのね。きっと、国中穏やかで暗いから、よく眠れる人が多いんだわ。


扉が閉まり、侍女のものでしょうね、ひそめた気配が数度出入りした。


再び静まり返ってから、様子を見計らってもそりと手を動かすと、枕元にいろいろと準備されている。約束通り、寝苦しくないようにしてくれたらしい。


用意されたものを取るべく、強張る腰を上げて体を起こす。固く絞った濡れタオルで顔やら体やらを拭くと、冷たさが火照った肌にちょうどよかった。


ベールを畳み、使い終わった諸々と一緒にベッドサイドに置いて、ぱたりと寝具に倒れ込む。


ベタつきがなくなるだけで嬉しいのだけれど、起き上がるだけで疲れてしまったわ。後で片付けを頼まなくては。


熱が移ってぬるくなってはいるものの、シーツはきわめて上等で、肌触りがよかった。


ほ、と小さく吐息を落とす。ベールに阻まれないと熱がこもらず霧散して、顔周りがもやもやと曇らない。


殿下なら、このお屋敷の人たちなら、寝顔を見に来るなんて意地悪はしない。そう、信じられる。


……婚約者の国とはいえ、見知らぬ国を、随分と信頼したものだわ。


仕方ないわね。信頼せざるを得ない状況で、どうしたって信じてみたくなる人たちなんだもの。みんなみんな、お人好しばかり。


窓の外から、街灯の優しい明かりがこぼれていた。目を閉じると、それも見えなくなって真っ暗になる。


わたくしはようやく一息ついて、ふと意識を手放したのだった。