身代わり同士、昼夜の政略結婚

後頭部に大きな手が回る。心音がうるさい。


「お嫌ですか」


ひどいことを聞く。嫌だったら振り払えるかと言えば、そんなことはない。ましてや嫌でもない。


肩口に押しつけるみたいに、首を横に振った。


「ミエーレ殿下。叶うなら、私はこのまま、あなたと一緒になりたい」

「その約定ですわ」

「ええ、そうですね」


震えるこちらの声とは対照的に、殿下の声は落ち着いている。


「これは同盟です。いわば政略結婚です」


──分かっています。私はまだ、あなたの顔も知らない。


「ですが、国は関係なく、あなたがいいのです」


ぎゅう、と縋る手を強める。殿下の上等なシャツは、きっとシワになっている。


「あなたの国を教えてください。あなたの愛する国や民を教えてください」


懇願のようだった。乾いて落ち着いた、湿気のない声が、乾いたまま熱をはらんでいる。


「私たちの国は、昼夜の国。反対の国。けれど対になればこそ、土を介するような、共通点もきっとあるでしょう」

「ええ。あれば嬉しいですね」

「文化、好きなもの、何でも構いません。あなたの言葉を、あなたの目を通したこの国のことを、もっと聞きたいのです」