身代わり同士、昼夜の政略結婚

オルトロス王国では、家々の軒先にその花を模した灯りが必ずひとつ吊るされ、蝋燭に混ぜたそれぞれの家の香りが漂う。

形と香りの組み合わせで、どれが誰の家なのかを識別する。


アマリリオ王国では、屋根の色、軒先の花の連なりと色合いで識別する。


花は一年中咲いているから、道端で手折っても、代々引き継ぐ花園から飾ってもよい。交配も盛んで、その家特有の模様を持つ花がたくさんある。


造花などなかった。花は模すものではなく、生けるものなのである。


だから、殿下からこちらでは花をさす、と聞いたとき、花の剣で突き刺すのかと思ったの。何かの処罰なのだと。


わたくしの部屋の椅子に座らせられ、いよいよ何か失敗してしまったのだと落ち込んでいたら、よい香りの花を髪に飾ってもらって拍子抜けしたのだった。


きょとんとしたわたくしから話を聞いた殿下は、向かいに腰掛けてお腹を抱えていたわ。


「ふ、……くっ、ふふ」


花を贈らせてくれてありがとう、よく似合っている、というようなことを言うのにも笑い、褒め終わってからも笑い、まだ笑っている。ひどい。


「殿下、そんなに笑わずともよいではありませんか」

「すみません、……ふふ、あなたが、あまりに可愛らしくて」

「褒められているとは思えませんわ!」


誤魔化されない。誤魔化されないったら誤魔化されないんだから。