「こちらは地下室です。花園になっています」

「ちか、というと」


耳慣れない言葉に聞き返すと、メモ用紙に特別濃いインクで書いて見せてくれる。

いろいろなところを紹介してもらううちに、聞くのも説明するのも、お互い手慣れてきた。


「地下は、地面の下と書きます。この扉の下に土の部屋があって、そこに花を植えてあるのです」

「土の部屋……このお屋敷の下に、別のお部屋があるのですか」

「ええ。この扉を開けて階段を降りると、地下室が広がっています。珍しい花園はともかく、オルトロス王国ではごく一般的に、どの家庭にも地下室がありますよ」


アマリリオ王国では、日の当たらぬ場所は忌み嫌われる。

地下に繋がる扉も階段もないし、当然、固い地面の下に部屋などない。土の中に住むのは昆虫や動物たちだわ。


「私たちは、あなたの国で言えば、暗がりで暮らしています。明るさの違いは、外も中も、上も下もこの国にはありません」

「なるほど。確かにそうですわね」


そっと、木の扉に触れてみる。やはり錠は銀でつくられている。


「かすかに土の匂いがします」

「この扉からですか」

「ええ。……不思議ですね。この国に太陽はありませんが、懐かしいひなたの匂いがします」

「そうか、土の匂いは、ひなたの匂いと似ているんですね」


ええ、と頷いた。あちらの雨上がりは、こちらの地下室に似ている。


あなたの国と繋がっているだなんて思いませんでした、と彼は微笑んだ。