身代わり同士、昼夜の政略結婚

「殿下のお部屋はこの近くですか?」

「隣におりますよ。何かあれば呼んでください」

「安心いたしました。何かありましたらお声掛けさせてくださいませ」


部屋の間取りを鑑みるに、妻としてふさわしい部屋をもらったらしい。


みの虫姫の噂は大陸中に轟いている。お飾りの妻にされるとか、逆に手ひどく扱われるとか、いろいろな可能性が浮かんでいたのだけれど、常識的で手厚い歓迎にほっとする。


持ってきた花束は、手ずから花瓶に生けてもらった。


「綺麗な花束ですね。何という花ですか?」

「金木犀と、銀木犀というお花ですわ」


それだけで伝わった。ありがとうございます、に深い笑みがにじんだ。


「嬉しい手土産ですね。半分いただいても構いませんか?」

「ええ、もちろんですわ」


手折らぬようにか、たどたどしくも優しい手つきで花を二つの花瓶に生け直す。節の高い指が茎にゆっくり触れるのを、薄暗がりで見た。


夜の国には滅多に花が咲かないらしい。花に慣れたわたくしには、不慣れな王子が、少し可愛らしく見える。


「あなたと私の友好に」


差し出された花瓶を、両手で受け取る。ベールの隙間で二色が揺れた。


「両国の友好に。……わたくし、このお花を見て、あなたを思いますわ」

「私もそのように」


微笑んだ王子の後ろに、たくさんの花が咲いている。


歓迎のために大量に取り寄せたのだろう。壁を覆う見慣れた花は、残念ながら気候の違いに耐えきれずに萎れかかっているけれど、気持ちが嬉しかった。