低い声が心地いい。
となりでキーボードをたたく音が聞こえ始めると、かみしめるように、しあわせというものが湧き上がってきた。
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真央と出会ったのも、夜だった。
私はとにかく逃げたくて、歩いたことのないビル街をでたらめに進んでいた。
すれちがうのが、大人ばかりになってきたころ。
私も歩き疲れて、泣きたくなって、道ばたにしゃがみこんだ。
黒いパーカー。フードを目深にかぶってうつむいている。そんな人間に話しかけたいと思うひとはすくなかったみたいだ。
「きみ、どうしたの?」