「どうしてって、物音がしたからよ」

「そ、そうなんだ……。昨日はトイレに行ってただけだよ。家から出て行ったりしてない」


台所を挟んだ向こうで、わたしを探るように見つめてくるお母さんから目を逸らす。嘘を見破られてしまいそうで怖かったのだ。


「……、そう。それならいいの」


信じ切ってはいない、わずかな疑いを孕んだ声音。

それに気づいていないフリをして、「朝ごはん作るの手伝うよ」と言った。


スクランブルエッグとウインナーを瞬時に作り、お母さんが既に焼いていた食パンの上に乗せていく。最後にケチャップをかけて完成だ。


「……涼香、こんなに料理の手際良かったかしら」

「お母さんが教えてくれたんじゃん。わたしが涼太くんのお弁当作りたいってわがまま言った時にさ……」

「確かに、そんなこともあったわね」


淡々と交わされていく会話。


わたしとお母さんはいつもこんな感じ。

3人分の朝ごはんを食卓に並べていると、2階の寝室からお父さんが降りて来た。


「おお、2人とも朝が早いな。おはよう」


朗らかに笑ったお父さんに、わたしとお母さんは口を揃えておはようと返す。