菅生さんに名刺を半ば強引に受け取らされた日から、もう2週間が経っていた。

モデルを辞めたと報告した時の、心の底から安堵したお母さんの表情が今でも心に引っ掛かり続けている。


「お姉ちゃーん、今日もソーダアイスないの?」

「……うん、ごめんね」


ベッドの上で不満げにわたしを見つめる涼太くん。

最近、涼太くんは食べる物を山田先生から制限された。

手術で取り除くのが困難な場所にある爆弾のような脳腫瘍がだんだんと大きくなっているからだ。


『どうにかその腫瘍を取り除けませんか』

『それは、……難しいです。涼太くんの脳の神経細胞を壊しかねません。そういった摘出が困難な手術は、最悪の場合死に至ることもあります』

『そう、ですか……』


相談室で難しい顔をして向かい合わせで会話する山田先生とお母さんのことを思い出した。

わたしはお母さんの隣で、ただ無言で話を聞くことしかできなかったけれど……。


「僕、最近美味しいもの食べてないよ……アイス食べたい」


うるうるとした瞳を向けられても、わたしはそれから目を逸らすしかない。

お菓子もアイスも血糖値が上がって体に悪いということで、涼太くんは美味しいものを自由に食べることさえできなくなってしまった。