わたしは自力で、ここまでやって来たのだ。


「……どうやってお母さんの通帳番号を知ったの」

「……、お母さんが寝てる時に、こっそり」

「そう」


やけに淡々とした会話だった。

それに違和感を感じ始めた頃に。


「今すぐにモデルを辞めなさい」


何の情けもためらいもなく発せられたのは、温かみのかけらもない冷え切った言葉だった。


「え、……」

「当たり前でしょう。芸能界なんて、絶対にダメ。涼香には合わないわ」


どうしてお母さんはここまでわたしが芸能界で活動することを否定するのだろう。

どうして、芸能界には入らないでなんてことを言うんだろう。

昔から、それだけが疑問だった。


「どうしてお母さんは、わたしが芸能界で活動することを否定するの? お母さんは、一体何を考えているの」


ずっと聞きたくて、だけど聞けなかったこと。

勇気を振り絞って、そう訊ねた。


「───……、あなたを守るためなの。お願いだからこれ以上はもう何も聞かないで」


涼太のためにやってきたことを否定されたわたしの方が苦しいはずなのに、そう言うお母さんの顔がとても苦しく歪んで見えた。