「涼太くんの入院費を稼ぐためにモデルの仕事始めたもん……だからわたし、何も悪い事してない」


お母さんのあまりの形相に、だんだんと俯き気味に物を言うわたしを、冷たい目が見下ろしている。


「……〜〜っはぁ、もしかして、今まで毎月通帳に振り込まれてきた“40万円”。涼香がしていたの?」


呆れたような声が降ってくる。

何も、そんな言い方しなくてもいいじゃない……。


「そうだよ。高校生になって、4月から今までずっと稼いだ給料振り込んできた」


月4回は撮影現場に顔を出して、1回の撮影につき10万円は稼いでいた。

撮影日は、決まって土曜日。

学校が終わった後、学校のみんなにも家族にもバレないようにこっそりと撮影現場に向かうのだ。

高校に入学する前から、モデルをするということに関して決心は付いていた。

だから、これからの活動に支障が出ないように、わたしは“地味子”として学校に通った。


学校でのわたしは、黒縁メガネをかけて、ぼさぼさなダサいウィッグを被っている超地味子。

だから、誰もわたしがモデルをしているということに気づかない。気づけない。

今よりもっと名が売れて、公の場に出る機会が多くなったとしても。

売れっ子モデルの刀利涼香と、超地味子な刀利涼香をイコールで繋ぎ合わせることなんてできない。

名字と名前が一致していても、「そこまで珍しい名前じゃないだろ」と偶然の出来事として片付けられるだけ。