俺様御曹司は逃がさない

あれ……?

視界がボヤける……九条の声が聞こえない……。

自分がフラフラしているのがよく分かる。全身の力が抜けて、もう立っていられない。

あたしが前に倒れそうになったのを多分、九条が支えてくれた。


────── ごめん、九条……。そして、ありがとう。



・・・・夢を見た。

なんの夢だったかは覚えていないけど、とても幸せだったのは覚えている。

ホッコリした気持ちで目が覚めて、ゆっくり瞼を上げると……自分の部屋のベッドの上に寝ていた。


「お、目ぇ覚めた?」


チラッと横を見ると、ベッドのフチに腰かけている九条が居た。


「ごめん。意識飛んじゃった……」

「いや、なんの『ごめん』だよ。そりゃ意識もブッ飛ぶだろ~。お前今日働きすぎな」


起き上がろうとすると、九条がさりげなくあたしの背中に手を当てて押してくれた。


「あたし結構寝ちゃってた?」

「いや?2時間くらいじゃね?もうちょいで日付変わる」

「そっか。お母さん達大丈夫だった?」

「あーー、父親の方が狂ったように泣いてて、母親にブッ叩かれてたわ」

「ごめん……責められたりしなかった?」

「いいや?……誰も責めてくんなかったわ。なんで誰も、俺を責めないんだろうな」