俺様御曹司は逃がさない

七瀬に背を向け歩き始めると、後ろでしゃがみ込む音が微かに聞こえた。

でも、振り向くことはしない。


「美玖ちゃん」

「九……条君……どうしたの?」

「悪いけど七瀬さんのこと頼める?裏に居るから」

「うん。いいけど……九条君、顔色すごく悪いよ?」

「僕のことはいいから七瀬さんのことお願いね。じゃ」


────── 口の中が甘ぇな。


そんなことを思いながら人混みの中を歩いた。


・・・・いや、なんで口の中が甘ぇんだ?


そして、徐々に鮮明になっていく……。


「……マジか、俺」


よりによってあの七瀬に何をしてんだ、俺。

ドエロいキスを七瀬にカマしたという、受け入れがたい現実を突き付けられている。


「あっ、柊弥ーー!!どこに……行ってた……のよ」

「どうした、柊弥」

「悪い、俺帰るわ」

「ちょっ、柊弥!?」

「おい、大丈夫なのか?」


俺の腕を掴んで、真剣な表情を浮かべている蓮。


「大丈夫だっての。マジで……なんつーか、ちょっとしたハプニング的なもん」

「本当に大丈夫なんだな?」

「問題ない」

「そっか。分かった」

「悪いな、凛」

「ううん」

「じゃーな」


────── チッ……どうすりゃいいんだよ、これ。