俺様御曹司は逃がさない

その辺はあいつの実力を信用している。

心配なのは相手の方。

ま、少しくらい痛み目に遭わないと、同じことを繰り返して被害者が増える。

あたしだったからまだ良かったけど、これが普通の女の子だったら……きっと耐えられないだろうから。


「七瀬様。大丈夫でしたか?」

「あ、はい。ありがとうございます」

「未遂で済んで本当に良かったです……。柊弥様が気付いてくださったおかげで何とかなりましたね」


霧島さんが運転する車に揺られながら、多分九条家に向かっている。


「九条が……気付いた?」

「はい。七瀬様の声が聞こえると……私には全く聞こえませんでした」

「そう……なんですか」


あたしの声は誰にも届かないと思っていた。

でも、違った……九条にはしっかり届いていた。

九条はあたしの声を聞き溢さず、逃さなかった。


──── ドクンッ……ドクンッ……と胸が高鳴る。


助けてほしい……そう思ったあの時、咄嗟に出てきたのが“九条”だった。

なんなんだろう……あたしにとっての“九条”という存在は。

いや、今はそんなことどうでもいい。


「霧島さん、車止めてください」

「え?」