────── 夏季休暇目前。

あたしは激務をこなしていた。

平日や休日なんて関係なし。学園内でも学園外でも怪我をした左手を理由に、アレコレいいように使われている。

九条の世話だけではない。

体術強化訓練やその他諸々……やらなければならないことが山ほどある。

1日じゃ足りない……時間が足りないっ!!


「おーーい、七瀬」

「なんですか」

「あれ取って欲しいんだけどー」

「あれとは」

「あれはあれだろ」


あっちへこっちへと忙しく動いているあたしに、『あれ』と言ってくる九条。

ていうか、動けますよね?あなた。

左手が不便なだけで、動けますよね?あなた。

欲しいものがあるなら、自分で動いて取ってよ!!


「自分で出来ることは自分でしてくれませんか。忙しいんですよ、あたし」

「お前の要領が悪いだけだろ、それ」

「くっ……!!」


思わず『くそっ!!』と言いかけたけど、上杉先輩の鋭い眼光のおかげ(?)で何とか耐えた。

そして、それがお見通しな九条は偉そうにニタニタしながらソファーでふんぞり返って、大変ご満悦な様子。

今すぐそのソファーから引きずり降ろしてやりたいわ。


「九条様、誠に申し訳ございません。『あれ』とは何でしょうか」

「全く使えないね~。もういいや~」