俺様御曹司は逃がさない

『あっそー』と興味無さそうに言って、一瞬だけ表情を曇らせた柊弥をこの俺が見逃すはずもなく。

俺は片っ端から九条家に従えている者達を集めて、それはそれは盛大に柊弥を応援した。

『恥ずかしいからやめろっつーの!!』とかアレコレ言われたけど、そんな柊弥が可愛くて可愛くて仕方なかった俺も相当どうかしてる。

────── その日の夜。

風呂から上がって、朝飯の仕込みをする為に調理場へ向かった。


「ん?なんだあれ」


調理台の上に紙切れが1枚落ちていた。


「…………マジか」


────── “ありがとな”


綺麗な字でそう書かれた紙切れ。

これを誰が書いたか、そんなの俺はすぐに分かった。

ポロッ、ポロッ……と頬を伝う何か。


「……はは、俺……泣いてんの?」


馬鹿みたい涙が頬を伝う。

親に捨てられた時でさえ、涙なんか1ミリも出なかったこの俺が?泣いてんの?ありえねぇ。

・・・・たった5文字、たったの5文字なのに……どうしようもなく嬉しくてたまらなかった。

俺、こんなに幸せでいいのか……?と浮かれた。


「やっぱ辞めらんねぇな……このクソガキのお付きは」


────── あれから数年。


「未だにあの紙切れを大切に持ってるとか……死んでもあいつにだけはバレたくねえな」