俺様御曹司は逃がさない

「おい、七瀬。マスターに腹パンとか前代未聞だぞ。マジでありえねえ」

「腹パンなんて人聞きの悪いことは言わないでくださいませ。少し手が滑っただけです。マスターは大袈裟なんですよ。ね?宗次郎君。ははは」

「いや、俺に振られても」

「お前だって上杉家の端くれだろ。こいつにサーバントとはなん足るかを教えてやれ、宗次郎」


あたしと宗次郎は目を見開いて、バッと九条のほうへ向いた。


「あ?なんだよ、お前ら」

「九条様が俺の……い、いえ、すみません。何でもないです」


反応に困っている宗次郎。名前を呼ばれて一番驚いているのは宗次郎だもんね。

・・・・もしかして、あたしが『名前で呼んであげて欲しい』って頼んだから……かな?いや、あたしの頼み事を聞いてくれるようなタイプではない……ないんだけど、もしかしたら……ね。


「九条」

「んあ?」

「ありがとう」


九条を見上げながらお礼を言うと、何故かほんのり頬が赤くなっている九条。まさか……熱がぶり返したんじゃないでしょうね!?もう看病なんてしたくないんですけど!!


「なんの礼だよソレ、意味分かんっ……」

「ちょ、あんたっ!!熱あんじゃない!?」

「はっ!?いきなりなんだよ、熱なんてねぇわ!!」

「顔赤いってば!調子に乗るから熱がぶり返すのよ!!」

「ちっげぇよ、そんなんじゃねえっつーの!」


そんなあたし達のやり取りを冷ややかな目で見ている宗次郎と、熱を測らせろと騒ぐあたし、絶対測らせないと騒ぐ九条はみんなの元へ向かった。

── 一時はどうなることやらと思ってたけど、一触即発は回避……できたのかな?多分。