「あの、あたしトイレにっ……」

「いってら~。さっさと戻って来いよ」

「……御意」


許嫁はニコニコしながら手を振ってくる。あたしも一応ニコッと微笑んで手を振った。

・・・・トイレに行く道中、わざとぶつかってブツブツ言われたり、コソコソと……いや、聞こえるような声で罵られたり……まあ、あたしが我慢すれば済むだけの話だから、どうでもいいっちゃどうでもいい……というか、こういうのは相手にするだけ無駄。


「ねぇ、咲良さんが帰国したって本当?」

「あ、僕さっき見ましたよ」

「悔しいけど、咲良さんは申し分無いわよね~」

「お似合いですよね、柊弥様と」

「許嫁ですし~」


あたしをチラチラ見ながら、クスクス笑って話しているこの人達は、あたしにどんな反応を求めているんだろう。……とりあえず笑っとくか。

ニコッと微笑んで軽く会釈をすると、興味無さそうに何処かへ行ってしまった。


「なんだあれ」


・・・・にしても……許嫁に、霧島さんに、榎本さんに……。


「はぁぁ。一悶着だらけだなぁ……」


あたしは重い足取りで、九条のもとへ向かった。