俺様御曹司は逃がさない

口では淡々とそう言えるけど、内心バクバクドキドキしている。熱があって弱っているとはいえ、押し倒されたら抜け出せないだろうし、きっと抵抗したって意味ないくらい力あるだろうしね、こいつ。ゴリラだから。

あたしは動揺を悟られぬよう、九条の背中を拭き続けた。


「ほんっと変な女。俺の何がそんなにも気に入らないわけ?」

「何でしょう。存在……ですかね?」

「それはさすがに泣くわ」

「ははは」


それから無心で九条の体を拭いた。


「ああ、お前のせいでしんどくなってきたわ」


おそらく薬の効果が切れてきたんだと思う。


「人のせいにするのはお辞めください」

「あーーもういい。寝る、黙っとけ」


そう言うと布団の中に潜った九条。

・・・・『黙っとけ』……か。“帰れ”……ではないんだ。

何だかんだ言って、初めての風邪だから心細いんだろうな。そう思うと、ちょっと……ほんのちょっとだけ可愛く思える。


「安心してお眠りください。あたしはここに居ますので」

「……あっそ」


そして、少しすると九条の寝息が聞こえてきた。

あたしは何をするわけでもなく、ただベッド横……床に座ってボーッとしていると、いつの間にやら意識が飛んでいた──。