「やはり逃げられてしまったか」
ワシの名は九条邦一(くじょうくにかず)。
国内はもちろん、国外でもそれなりに名を馳せておる九条財閥(九条グループ)で“名だけの会長”を勤め、今は何から何までまで社長である息子に全てを託し、のんびりと余生を満喫しておる……と言いたいところだが、次期社長候補であるバカ孫に頭を悩ませる日々。
あのクソガキは誰に似たのか検討もつかん。
軽薄でちゃらんぽらんな奴になりおって──。あのヘラヘラした顔もおちゃらけた態度もなんとかならんもんか?人を小馬鹿にするような、神経を逆撫でするような、あんのクソ生意気なガキ。
「はぁぁ。九条家の未来は一体どうなることやら。なぁ?紀美子(きみこ)」
今日も今日とて、バカ孫をどうしようか……そう考えながら、今は亡き妻と初めて出会った公園に訪れていた。
紀美子が好きだったブランコに揺られ、雲ひとつない空を眺める。
穏やかな風に吹かれながら黄昏るのも悪くはない。
端から見たら老人がブランコに乗ってるなんぞ、奇妙で仕方ないだろう。誰ひとり声をかけてくることはない。むしろ奇妙がって避けられる始末。
・・・・時代が時代なだけに、ブランコに乗っている老人を避けるのは賢明かもしれんな。
色々が発達して何かと便利になった世の中と引き替えに、大切なナニかを失っているようにも感じる今の世の中。それでも若人達は“今”を生きていかねばならん。



