愛を語るより…

狭い車内。
運転席と助手席の間も気にならないくらいにぴったりと、私のことを優しく縫い止めるように…。


「好きだよ…信じられないかもしれないけど」

「好き………蒼さんが、本当に………?」


彼の言葉を頭の中でゆっくりと咀嚼する。
反芻するだけでは脳内処理が出来なかったからだ。

でも、次々と降ってくるキスが心地良くて、それが私に親愛という明かりをくれる。


「キス、しても?」

「…聞かない、で…」


恥ずかしい、切ない、恋しい、愛しい…。


色んな感情が胸の中に渦を巻く。
それでも、彼から受けたキスがどんどん深くなっていくことに、咽るような愛情を感じて私は彼の全てを甘受しようと少しだけ口唇を開いた。

其処に遠慮なく忍び込む、彼。
暫く混ざり合った後、それだけで力尽きてしまった私のおでこに掛かった前髪を指でそっと払って、名残惜しそうにリップ音を付けながら離れていく。


「…なんだか、このまま連れ去りたいって思ってたのに…そんな可愛い反応ばっかり見せられたら、イケないことしてる気分になるな。ねぇ…?香帆ちゃん?今夜は、これ以上何もしないから、隣にいてくれる?」

「は、い…」


すっかり呼吸を乱されて、私は肩で息をしながら、そう短く返事をした。


そして、慈しむような柔らかいタッチで私の頬を撫でると、私の手をまたすりすりと握りながら、運転を開始する彼。


彼はそのまま、車を高速道路へと滑り込ませ、今よりもずっと遠くに私を連れ出した。

さっきよりも速く流れて行く車窓からの景色。


キラリと光る仄かな乳白色のライトと、蕩けそうな柔いレモン色と桜色と赤色の中間色のライト。

織り重なる彩色たち。


私の口唇から零れ落ちる、感嘆の声。
それを聞きながら、あれはなんの建物だとか、今の時期しかあの色は点灯しないのだとか、彼は私に一つ一つ丁寧に教えてくれる。

一瞬だけ、彼の過去の女性の影が過ぎってモヤモヤするけれど、敏い彼はそんな私を安心させるかのように、


「香帆ちゃんとのデートの為に、色々と調べたんだ」

と、言ってくる。


「柄にもなく、これでも必死なんだよ?過去は拭えないけど、香帆ちゃんだけを今は幸せにしたいからね」


なんて殺し文句を付け加えながら。


私はもう、蒼さんのことしか考えられない程、キャパオーバーで、心臓が跳ねまくりなのに、これ以上ときめかせないで、なんて思った。

でも、そんなことを言ったら…彼のことだからもっと何か甘い爆弾発言を投下してきそうで、心に仕舞い込む。


そんな中、ふとなんとなく知っているような、そうでもないような洋楽が、カーステレオから流れてきた時、彼は高速道路を降りて、目的地へともう少しで到着するよ、と言ってくれた。


その言葉に、解れていた緊張の糸が、ピンっと張る。

彼はくすくすと笑って、大丈夫だよと私の指の間に自分の指を差し込んで、きゅっと握り締めてくれた。