愛を語るより…


恭しく私の手を取り、スッと手袋を外して、その手のひらにキスを落とす彼。
私は、震える声でこう告げる。


「蒼さんは、私の何処が、その…好きなんです、か?」

「全部だよ」

「え…」

「香帆ちゃんが入社してきた時から。面接官の中に俺も混ざってたこと覚えてる?」

「はい」

「其処で、ピンと背筋を張って、俺達のことを見つめてさ、"御社に入社出来た暁には、私は誰にも真似の出来ない仕事をしたいです、それが例え雑務だとしても"なんて、誰もあんまり言わないようなことを言われた後に、照れ臭そうに微笑されたら…堕ちないヤツなんかいないと思うよ?」


確かにそんなようなことを言ったかもしれないけれど…あの時のことは面接官と対峙するのとなんとかして第一志望のこの会社に入社したいと言う気持ちでいっぱいいっぱいだったから、言った台詞はよく覚えていない。


それなのに…一言一句違わずに、そんな私の放った言葉を覚えていてくれたことにまた胸が熱くなる。


如何してこの人は、私を喜ばせるのがこんなにも上手いのか。

赤面したまま固まっている私に、またくすくすと笑って…おでこと頬にキスを落とす彼。


「その時から…放っておけないなって。可愛くて愛しくて、この子の傍にいたいなって、そう思ってた」


どんどん落ちてくる彼の口唇。
鼻にもう一度頬にそして…男の人特有の少しだけゴツゴツした指で顎を掬い上げられ、視線が絡まる。


「あ…」


待って、と言う前に彼は私の口唇に軽くキスをした後…そのまま私が逃げられないようにと後頭部にさらりと指を通し固定して、深く深くキスを仕掛けてきた。


「んんっ」

「可愛い、ほんと…ずっとずっとこうしたかったんだ……、なんて言うとストーカーみたいだけどね」


苦笑いしながらも、その瞳は私を捕らえて放さない。
まるで餌に飢えた獰猛な動物のように。
私は酸素を求めるように、彼のジャケットの裾をぎゅっと掴むので必死だった。


キスだけで、こんなにも満たされるだなんて、今まで知らなかった…キスだけでこんなにも愛しさが増すだなんて…蕩け出した想いが胸をきゅーっと締め付け、切なさとはまた違った感情が湧き出る。
滲む視界。
それに気付いた彼は、私の目元にキスをしてからそっと抱き締めてくれた。


「ごめん、ちょっとガッツいちゃったね。怒ってる?」

「…っ、」


違う、と言いたいのに、気持ちよ過ぎるキスの余韻で上手く頭が回らない。
なんとか、ふるふると首を横に振って彼の問いに大丈夫だと伝える。

彼はフッと笑ってまた、ぎゅうっと私を抱き締めた。