「あのね、えっとね、彼氏ができたよ」



わかっていた。

今日か、明日か、明後日か。
ただそれくらいの違いってだけ。



「えへへ。りっちゃんにいちばんに知らせたかったんだあ…」



もっとはしゃいでいるものだと思っていたが、彼女はとても綺麗だった。

かわいい、が似合っていた真琴が、またひとつ大人に一歩近づいてしまったような。


止まっているのは私だけか。

進めないでいるのは、私だけだ。



「改めまして。上鷹先輩と、お付き合いすることになりました」



おめでとう、言えたっけ。

良かったね、くらいは言ったよな……たぶん。


曖昧な記憶は曖昧のまま、封じ込んでさっさと過去になってくれと願うばかりだ。


ただ私が何かを言って、うれしそうな真琴の顔があったことだけはなんとなく記憶にある。

つまり私は親友として祝福するという選択を無事に選べたらしい。



「……あっつ…」



もんわり湿気を含んだ風と、太陽から放出される紫外線。

校門を出ていく生徒たちのなかには日傘女子も居るけど、あそこまでしようとは思わない。