〔*蓮SADE*〕

俺の部屋に来た時、あいつは俺を怖がっていた。
…でも、さっきの事は絶対に謝ろうと思った。

自分から謝ろうなんて思った事も、考えた事もない。
ーそれなのに、どうしてあいつにだけは謝ろうと思ったんだ…?
あいつの事、知りたい…なんて、俺じゃない。

「…おい」
…ビクッ‼︎
「は、はいっっ…⁉︎」
恐る恐る返事をしたそいつ。

「お前、名前は…?」
誰かの名前を自分で知ろうとした事もなかった、はずなのに…
こいつは、何なんだ…?

「姫乃…梨々…ですけど…」
…梨々、か。可愛い名前だ。

「…梨々、さっきは悪かった。」

思った事が素直に口から出た。
こんな事初めてだ…。俺は困惑した。

「…い、いや、別に気にしてないので大丈夫です…。」
…いや、泣いてただろ。気、遣ってるんだな…。

「お前…泣いてただろ。」
「ーっ‼︎」
梨々のリアクションはすごく分かりやすかった。聞かれていた事がショックなのか、青ざめている。

「…何が大丈夫なんだよ。全然大丈夫じゃねーじゃん。」
梨々は、顔を苦しそうに歪めて涙をこぼした。
「ーっ…す…みま…せ…ん…っ…」
ーっ‼︎
…可愛い。
「可愛い」なんて、どうかしてる。

「っ…れん…さん…は…わ、たし…の…ことっ、き、らい…なんですか…?」
上目遣いで見つめてきた梨々。

…ヤバい、可愛いすぎる。
「…いや、嫌い、なんじゃない。…ただ、俺の周りにいた女は言い寄ってきたり、付き纏ってきたりして、鬱陶しかったから…お前も…そうだと思った。…でも、お前は違った…。勝手に思い込んで、悪かった。」

自然と口から出た言葉。「嫌いじゃない」
…?

「…ぐす…っ、困りますよね…。泣いてしまって、すみません…。もう部屋から出ていくので…ごめんなさい…。」

…また気、遣ってるし。
人の事ばっかり気にしやがって…もっと自分の事、大切にしろよ。

「…待て」

俺は、咄嗟に梨々の手を掴んだ。
梨々は振り返って、びっくりしたような、驚いたような顔をした。

「…泣き止むまで、ここにいろ。気持ちが収まるまで泣けばいい。」

俺は、何言ってるんだ…?

「そ、そんなのダメですよ…。」

「…そうか。」

俺、風邪でも引いたか…?

梨々は、困ったような顔をした。

「っ、やっぱり…お言葉に甘えさせていただきます…。」

顔を赤らめた梨々。
…その顔はどことなく可愛くて、目を離す事ができなかった。

梨々は、幼い頃の話をしだした。

「…そんな時、”ある男の子”に出会ったんです。」
ーっ⁉︎俺、か…?

…いや、ただそいつと状況が一緒だっただけだ。
俺と梨々は関係ないー

「…そうか。そんな辛い過去があったのか…。すまなかった…。」
俺は、心の底から謝った。

「っ…く…っ…ひぐ…っ」

梨々は、静かに涙をこぼした。
そんな梨々を、優しく包み込んだ。

…あー、離したくない…。ずっとこうやって、包み込んでいたい…。

ーなんでこんなにも愛しくて、

“可愛い”んだ…?

…何て、こんなの俺じゃない。