「ようこそ一ノ瀬家へ。姫乃梨々ちゃん。」

結局来てしまった…。
心では「絶対無理‼︎」って分かってるのに…圭さんの圧に負けた…(泣)

「君には、今日からここで働いてもらうよ。よろしくね。」
「こ、こちらこそ、よ、ろしくお、お願いしますっ‼︎」
圭さんのお家ってすっごく大きい…お金持ちなんだな…

「あ、そうそう。ここが梨々ちゃんの部屋ね。ここ、空き部屋なんだ。」
部屋のドアが開くとともに、私の目に飛び込んできたのは…

「か、可愛い…‼︎」
広い部屋…それに、家具がとっても可愛い…‼︎誰の部屋だったんだろう?

「…誰の部屋だったんですか?」
思わず圭さんに聞いた。
「あぁ、ここは“娘”の部屋だったんだ。もう独り立ちしてしまってね。だから、この部屋はずっと使っていなくて、そのままにしてあるんだ。」

圭さん、娘さんいたんだ…
次はこの部屋か…誰の部屋だろう?息子さん…とか?
私が考えているうちに部屋のドアが開いた。
「紹介するよ。私の息子の「一ノ瀬 蓮(Itinose Ren)だ。よろしくね。」

蓮さん…か。イケメンだ…。こんなにカッコいい人、いるのだろうか。きっとモテるのだろう。でも…雰囲気が…何か…怖いっていうか…
「それじゃ。お願いね。私はこれから仕事があるのから。」
えっ⁉︎急に圭さんがいなくなってしまいましたっ‼︎
「あ、ちょっと‼︎圭さんっ⁉︎」

ど、ど、どどどうしよう…っ

…っ、沈黙が痛い…。
心を決めて恐る恐る口を開いたその時…
「っ、あの…」
「お前、誰?」
蓮さんが初めて口を開いた。でも、冷たくて静かな声…
「えっ…と、今日からここで…」
「部外者は帰れー …っ⁉︎お前…!」

「ーっ…。」
…そうだよね。私みたいなこんな地味な奴がいちゃいけないよね…。
一瞬蓮さんの冷たい言葉に泣きそうになってしまった。
でも、私は…
「…ごめんなさい。私なんかがここにいては迷惑ですよね…。でも、私はここで“働きたい”ので…‼︎…失礼します。」
これ以上そこにはいられなかった。何故かは分からなかった。ただただ悲しくて、私はその場から逃げた。

それから自分の部屋に入ってドアを閉めた。
「ーっ…うっ…う…っ…」
嗚咽がもれた。
何故泣いてしまったのか、何故悲しいのか、自分でも理解できなかった。
そして不意に、お母さんのことを思い出してしまった。
『ーっ…うわーん…』
そうだ…あの日も私は泣いてたんだ…

『もう、梨々は泣き虫なんだから。泣いてても良い事何もないんだよ。それに、梨々は笑ってた方が可愛いよ?泣いてたら、せっかくの可愛い顔が台無しでしょ?』

…お母さん?
優しい声…

「ーっ…う…っ…」
『梨々は笑っていた方が可愛いよ?』
そんな訳ない。私は可愛くなんかない。何の取り柄もない、ただの地味子だ。

でも…泣いてちゃダメだ。せっかく圭さんが仕事をくれたんだから、自分の事情だけでサボる訳にはいかない…。
これ以上泣いたら、もう立ち直れなくなってしまうからー。