天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~

「ごめんね、華蓮。遅くなってしまって」

 雲朔は最初から訪れるつもりだったらしい。

 私は顔を強張らせたまま、曖昧に頷くだけだった。

「どうしたの? 顔色が良くない。女官たちになにか粗相があった?」

 雲朔の顔が険しくなった。途端に変わった雰囲気に、背筋が凍る。

「とんでもない! みんなとても良くしてくれるわ!」

 私は慌てて否定した。ここでしっかり否定しなければ、彼女たちの命が危ない。

「そうか、それなら良かった。じゃあ、どうしてそんなに浮かない顔をしているの?」

「それは……」

 言えるわけがない。あなたが怖いなどと。約束を守り、見つけ出してくれた恩人に向かって、そんな失礼なこと。

 再会した時は、感動で胸がいっぱいになった。雲朔に抱きしめられて幸せだった。

 でも、何万人もの命を無慈悲に奪った人物だと思うと、心が拒絶してしまうのだ。

 私が泣きそうになって俯くと、雲朔はにこやかに笑った。

「わかった、緊張しているんだね。大丈夫だよ、正式な婚姻の儀が終わるまでなにもしないよ」

 ほっとして顔を上げる。雲朔と目が合ったとき、こんなにあからさまな態度だと、怖がっていたことが気付かれるんじゃないかと思って、慌ててまた顔を伏せた。