天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~

  お風呂を出たあとは、女官たちが一斉に支度に取りかかった。上等な上襦下裙を身に纏い、髪を丁寧にとかし、二重のまげを結い上げてくれた。煌びやかな髪飾りを何本も差し、化粧を施される。

「光り輝くようなお美しさでございます。元々のお生まれのせいでしょうか、着せられたかんじは一切せず見事に着こなしていらっしゃいます」

 女官たちはうっとりと言った。褒められることは素直に嬉しいけれど、頭につけた簪も豪華な衣装も重たくって仕方ない。村にいた頃は綺麗な服が懐かしくて恋しかったけれど、実際に着てみると窮屈だったことを思い出した。

 どこからどう見ても、文句のつけようがない美しい妃だ、と女官たちが思っているのが伝わってくる。

(私が皇妃だなんて。そんなの、おかしい)

 自分が皇妃の器にないことは十分すぎるほどわかっている。

 でも、雲朔は皇帝で、お嫁さんになりたいと頼んだのは他でもない自分である。

(まさか皇帝になるなんて……)

 日が暮れて、夜になった。

 寝衣に着替えて、寝る準備をしていると、急に後宮内が慌ただしくなった。

「娘々、急ぎこちらに着替えてください」

 渡されたのは、豪奢な衣。きらきらと輝き、天女のように華やかだ。率直にいって、こんな衣で寝たら肌に細工が当たって寝づらいと思う。

「え……どうして?」

「大家がいらっしゃいます」