天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~

 鴛家が皇位に就くより前から代々継承されてきた唯一無二の皇帝の印。

 四角い判の上には、龍の像がついている。手に持つとどっしりと重く、歴史を感じさせた。

 僕は玉璽を布袋に入れ、懐に仕舞った。

(今度こそ逃げるぞ)

 辺りを見渡し、亡き父の私室だった思い出の場所に別れを告げる。

 突然、目の前で亡くなった父。

大きな軒轅鏡が落ちた床からは大量の血が流れだしていた。

 息子たちには厳しかったが、偉大で賢帝だった父。さぞかし無念だっただろうと思うと、目に熱いものが込み上げてきた。
 懐にしまった玉璽に手をかけ、僕は誓った。

(再び、ここに戻ってきます)

 その時だった。数人が走ってくる音が聞こえ、僕は慌てて秘密通路の扉を開けて暗闇に紛れ込んだ。

 真っ暗闇の中で、自身の鼓動が耳に届くほど一気に緊張感が増した。

(誰だ、まさか、玉璽を取りに?)