天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~

 胸の奥から湧き上がる憎悪に突き動かされ、僕は歩いていた。

 父を殺され、そしておそらく母も、兄弟も殺されているだろう。

 武力も体力もない非力な自分になにができるのか。僕は必死に頭を巡らせた。

(絶対に許さない……。盾公、お前の好きにはさせない)

 僕の目は血走り、赤く充血していた。

 ようやく元来た道を歩き終え、梯子を使って後宮内に這い上がる。

 外はもう夜だった。暗渠から出られたのに暗闇で、まるで暗渠がまだ続いているようだった。

(むしろ、地獄はこれからかもしれない)

 疲れはとっくに限界を越し、僕の体は熱を帯びていた。でも、休むわけにはいかないし、ここで倒れるわけにもいかない。気力だけで僕は動いていた。

 後宮内は静まり返っていた。しかし、誰もいないわけではない。

 後宮妃や女官など、たくさんの女性がいた。ただ、彼女たちが動いていないだけだ。

 無残に殺された遺体がそこかしこに転がっている。

 静まり返っていたのは、惨殺を終えたからだった。