天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~

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 女官たちの目をかいくぐり、後宮内を一人で散歩していた私は得意気に鼻歌を口ずさんでいた。

(亘々がいなければ、女官たちなんて何人いても私の敵じゃないわ。楽勝、楽勝)

 今ごろ女官たちは必死で私を探しているはずである。その様子を想像すると笑みが零れる。見つかったあと、亘々にこっぴどく叱られるのは、今は考えないことにする。

 ドボンと大きな音がして太鼓橋のある小川を見ると、水面が不自然に波打っている。

(誰かが落ちたの⁉)

 急いで現場に向かうと、川の側に子供用の深衣が乱雑に置かれていた。黒を基調とした高級な絹の素材だ。それに、禁色とされている紫糸で小さな龍の紋章が細工されている。

 つまり、これは皇子のものであることを示す。そしてこの深衣には見覚えがあった。

(雲朔……っ!)

 見覚えのある人物の顔が浮かぶと、考えるより先に私の体が動いていた。