天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~

僕は太鼓橋をおりて、草むらから川を見下ろす。宮廷内は掃除が行き届いているので、小川も澄んでいる。指先を入れてみるとなかなか冷たい。どうするか一瞬迷ったが、気合を入れて小川の中に顔を突っ込んだ。

 目を開けると蜥蜴が必死で上がってこようとしているが、どう見ても溺れているだけだ。

(お前、泳げない種類の方かっ!)

本当にどんくさい蜥蜴だなと思いながらも、溺れ死にかけている蜥蜴と目が合ってしまったのだから、もう後にはひけない。分厚い深衣を脱いで川の中へ飛び込む。

 冷たいというよりも、肌を突き刺すような痛みを感じた。

小川だと思っていたので侮っていたら、意外と深い。まるで沼のようだ。蜥蜴は力尽きたのかどんどん沈んでいくので、僕も追いかけるように川の底へと沈んでいく。底の方まで辿り着き、ようやく蜥蜴を捕まえ、落とさないように衿の中に仕舞う。

 さあ、戻ろうと思ってはたと気がつく。

(僕……泳げたっけ?)

 泳いだ記憶はない。つまり、泳げない。

 これ、どうやって上がればいいんだろうと思っているうちに意識が遠のいていった。