天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~

 喧嘩に負けた俺は、売り言葉に買い言葉で、まんまと雲朔の手下にされてしまったわけだが、山賊が約束を守るわけがない。

折を見ては、雲朔をぶっ殺そうと卑怯なやり方で攻撃するのだが、いずれも返り討ちにされた。

 こっちはぶっ殺そうと相対しているのに、雲朔は決して誰も殺さない。

怪我も最小限に抑える徹底ぶりだ。

最初は嫌味なすかした奴だなと思っていたが、そうでもないということがだんだんわかってきた。

 命がけで、敵の命を守っている。

馬鹿なんじゃねぇか、こいつ。頭が良すぎる奴の考えることはわからん。

なにか大層な信念があるのかと思ったが、それすらもない。小さい頃、蜥蜴を助けるために川に飛び込んで死にかけた話を聞いたとき、雲朔は人間だから助けているわけではなく、そういう奴なんだなと妙に納得した。

 仲間思いなわけでも、特別情に深いわけでもない。かといって冷酷で利己的なわけでもない。

 ただ、有事の時は命懸けで守ってくれる漢気はある。

食料調達も、野営地作りも、下っ端がやる仕事なのに率先して一番働いている。

誰もが嫌がることも、無言で黙々とこなす。

偉ぶることもなく、贅沢することもない。

欲というものがなにもない。なんだ、こいつ。